Posts Tagged ‘不倫’

不貞(不倫)慰謝料の裁判例の紹介(夫と相手方女性に性的関係があったかは明らではないが、相手方女性が夫と同居生活を続けていた場合における慰謝料額)

2022-08-04

1 本事案の概要

 ご紹介する裁判例は、東京地方裁判所平成27年5月27日判決です。

 女性Yは、Xの夫であるAとの交際を開始し、その後約5年間にわたり同居生活を続けていました。

 これに対し、Yは、Aが性的不能であり、不貞行為が成立する余地はないと主張しました。

 そこで、妻Xは、YがAと不貞(不倫)関係にあり、その結果夫婦関係が破綻したとして、Yに対して500万円の慰謝料を請求しました。

2 認容された慰謝料額

  300万円

3 算定にあたって考慮された事情                      

⑴ 不法行為の成立について

 Aが、全く性的不能であったか否かは疑わしいが、仮に、YとAとの間に、性的関係がなかったとし ても、Yが、Xと婚姻関係にあるAと同居生活を続けている以上、不法行為が成立し得ることは、当然である。

⑵ 増額事情

・XとAの婚姻期間が約15年であること

・X及びAが、それぞれ相手の連れ子と養子縁組をしていること

・XとAの自宅土地建物が、夫婦の共有となっており、取得あるいは新築の資金調達のために、Xが所有する不動産に抵当権が設定されるなど、XAは財産関係でも密接な関係にあること

・Aの会社の経営に、Xが深く関与していること

・YがAと別れることには否定的とみられること

⑶ 減額事情

・YA間の関係について、Yが、主導的立場であったという事情はみられないこと

4 弁護士からのコメント

 本事案における特殊性としては、裁判所が、YとAの性的関係(肉体関係)の有無を認定することなく、YとAが長期間にわたり同居生活続けたことをもって不法行為の成立を認めた点にあります。

 一般的には性的関係(肉体関係)が認められない場合には、不法行為が成立せず、慰謝料も発生しないことが多いです。しかし、婚姻関係にある者が他者と長期間にわたり同居生活を続ければ、婚姻関係が破綻に至ることは明らかですので、本事案における裁判所の判断は妥当なものと考えられます(なお、判決時点においてXとAは離婚していないようですが、裁判所は破綻したと認定しています。)。

 また、不倫や浮気(不貞)により夫婦関係が破綻するに至った場合の慰謝料としては、150万円前後が基準となることが多い印象です。

 そうすると、300万円という慰謝料額は、裁判所が性的関係(肉体関係)の有無を認定していないことを考慮すると、かなり高額といえます。その理由としては、XとAの婚姻関係に問題がなく、財産関係でも密接な関係にあったにもかかわらず、長期間にわたり同居生活を続けたという特殊事情を裁判所が重く見たということができます。

 このように、本事案は、性的関係(肉体関係)が明確に認められなくとも、長期間にわたり同居生活を続けていた等の事情があれば、不法行為が成立し慰謝料が発生する可能性があることを示すものといえます。もっとも、慰謝料額が高額となっている点については、考慮要素としては挙げられていませんでしたが、Aが高額な年収(3500万円程度)を得ており、そのAとの婚姻関係が破綻したことも事実上考慮している可能性があります。そのため、300万円という慰謝料金額については一般化できるものではないと思料されますので注意が必要です。

不貞(不倫)慰謝料の裁判例の紹介(不貞行為以前から夫婦関係が相当程度冷却化、悪化していた場合の慰謝料額)

2022-06-10

1 本事案の概要

  ご紹介する裁判例は、東京地方裁判所平成21年8月31日判決です。

夫Aは妻Xに対して、婚姻前に交際していた女性と生活するため離婚したいと言い出したことがありましたが、XとAは離婚しませんでした。その後、AとYが不貞関係を持ったことが発覚し、XA夫婦は離婚するに至りました。そのため、Xは、Aの不貞(不倫)相手であるYに対して慰謝料300万円の請求をしました。

2 認容された慰謝料額

  60万円

3 算定にあたって考慮された事情

 ⑴ 増額事情

  ・特になし

 ⑵ 減額事情

・XとAの夫婦関係は、AとYが知り合う前である平成12年ころから冷却化しており、必ずしも円満、良好なものであったとはいえず、XとAが離婚するに至った主たる原因は、冷却化していたXとAの夫婦関係や家族関係にあったこと

・このような家族関係に悩んでいたAが、職場での勤務条件等の調整を契機にYに家族の問題を相談する等し、相談に乗っていたYがAと不貞関係を持つに至ったこと

・Yの不貞行為が、XA夫婦が離婚した主たる原因とまではいえないものの、他方で、Yとの不貞行為が離婚に至る要因の一つであり、契機となったこと

・AとYとの関係は一過性のものであって、現在、職場の上司としての関係を超える交際もなく、Aも、Yとそれ以上の関係を望んでいないこと

4 弁護士からのコメント

 本事案において、Yとの不貞(不倫)があった後、XA夫婦は離婚しました。不倫や浮気(不貞)を理由に離婚に至った場合の慰謝料額については、過去の裁判例などからすると150万円前後になることが多いです。
 そうすると、本事案における60万円という慰謝料額は、離婚した場合の慰謝料額としては低額であるとも考えられます。

 この点、不倫や浮気(不貞)が原因で離婚するに至った場合に慰謝料額が上記のような金額になるのは、不貞(不倫)が「原因」で離婚にまで至ってしまったから、すなわち、精神的な苦痛がそれだけ大きいといえるからです。

 しかし、本事案において、XとAの夫婦関係は、既に相当程度冷却化しており、Yの不貞行為は、離婚の要因の一つでしかないため、不倫や浮気(不貞)が原因で離婚する場合と比べて精神的苦痛は大きくないといえます。

 裁判所は特にこの点を重視し、本事案における慰謝料額を認定したものと考えられます。もっとも、不倫や浮気(不貞)が離婚の直接的な原因となったのか、それとも要因の一つにすぎないのかといった判断については明確な基準があるわけではなく、事案ごとに判断していかなければならないものです。

 そのため、このような点についてお悩みの方は、離婚・男女問題に注力する弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

不貞(不倫)慰謝料の裁判例の紹介(妻の里帰り出産中に夫が不貞を行った場合の慰謝料額)

2022-02-04

1 本事案の概要

ご紹介する裁判例は、東京地方裁判所平成20年12月26日判決です。

原告である妻は、いわゆる里帰り出産のため実家に帰省していました。しかし、夫は、職場の同僚女性(以下「A」といいます)に対して、別居中で離婚予定であると告げ、その旨誤信したAと不貞行為に及びました。

そのため、妻は、夫の不貞(不倫)相手であるAに対して300万円の慰謝料を請求しました。なお、本裁判中に妻と夫との離婚は成立していませんでしたが、妻は、夫に対して離婚を求めており、実質的に婚姻関係が破綻している状態でした。

2 認容された慰謝料額

100万円

3 算定にあたって考慮された事情

⑴ 増額事情

・Aと夫との不貞行為が、原告と夫との婚姻関係破綻の原因なっていること

・Aと夫が、原告が子どもを出産して間もない時期に不貞行為に及んでいること

⑵ 減額事情

・Aは、原告と夫との婚姻関係が破綻しているものと認識し、夫との交際を開始したこと

・原告と夫との婚姻期間が約7か月と短いこと

・Aと原告との不貞期間が約3か月と短いこと

4 弁護士からのコメント

不貞行為の継続期間、婚姻期間の長さといった事情は、慰謝料金額を決める際によく考慮される事情であり、本事案においても、それぞれの期間が短いことが減額事情として考慮されています。

もっとも、このような減額事情はありますが、婚姻関係が破綻している事案としては100万円という慰謝料額は低い印象を受けます。

本事案がこのような慰謝料額となったのは、やはり不貞(不倫)相手が夫の言動により、別居中で離婚予定であると誤信したという特殊性があったからだと考えられます。

keyboard_arrow_up

0934823680 問い合わせバナー