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職場不倫における「退職要求」の法的現実
配偶者の不貞行為、とりわけその相手が同じ職場にいるという事実は、耐え難い精神的苦痛をもたらすものです。毎日同じ空間で顔を合わせている状況を想像するだけで、怒りや不安が込み上げ、「相手に会社を辞めてほしい」と考えるお気持ちは無理からぬことかもしれません。
しかし、感情的な要求が法的に認められるとは限りません。ここで極めて重要な法的原則をお伝えしなければなりません。不貞行為に対する慰謝料請求は法律で認められた正当な権利ですが、不倫相手に対して退職を要求する法的な権利は、あなたには認められていないのです。
むしろ、感情に任せて退職を迫る行為は、本来被害者であるはずのご自身の立場を危うくし、強要罪や名誉毀損といった深刻な法的リスクを負うことになりかねません。そうなれば、正当な権利であるはずの慰謝料請求さえも、不利な状況で進めることになり得ます。
本記事では、平井・柏﨑法律事務所の弁護士が、なぜ職場不倫の相手に退職を要求できないのか、その明確な法的根拠と、要求した場合に生じるリスク、そして現実的かつ合法的な解決策について、専門家の視点から冷静に解説します。この問題の職場不倫の慰謝料請求に関する全体像は、公式サイト等の解説ページをご確認くださいで体系的に解説しています。
なぜ退職を要求できないのか?2つの法的根拠
「なぜ、これほどの苦痛を与えた相手に退職を要求できないのか」と疑問に思われるかもしれません。その理由は、法が「不倫問題」と「労働問題」を明確に区別して扱っているからです。この2つの問題は、適用される法律も、解決のあり方も全く異なります。専門家の視点から、その根拠を2点に分けて解説します。
理由1:不法行為に対する責任は「金銭賠償」が原則であるため
不貞行為は、婚姻共同生活の平和を侵害する「不法行為」に該当します(民法709条)。そして、不法行為によって生じた精神的損害は、慰謝料(民法710条)として金銭で賠償されるのが一般的です。これを「金銭賠償の原則」といいます。
つまり、あなたが受けた精神的苦痛という損害を、相手の「職を奪う」という形で回復させることは、法律が予定している解決方法ではないのです。慰謝料請求は法的に認められた正当な権利行使ですが、退職要求は法の範囲を逸脱した私的な制裁とみなされる可能性がある、とご理解ください。
理由2:雇用契約は「会社と従業員」の問題であり第三者は介入できないため
もう一つの重要な理由は、労働契約の性質にあります。雇用契約は、あくまで会社と従業員との間で締結される契約です。不倫をされた配偶者は、その契約の当事者ではありません。したがって、第三者であるあなたが、他人の雇用契約に介入して「退職しろ」と法的に強制できる権利は、原則として認められていません。
これは、日本国憲法で保障されている「職業選択の自由」という基本的人権にも関わる問題です。不倫という私生活上の問題と、相手が労働者として持つ権利は、法的に完全に切り離して考えなければなりません。

【立場別】退職要求がもたらす深刻な法的リスク
退職要求が法的に認められないだけでなく、その行為自体があなたを法的に不利な立場に追い込む危険性をはらんでいます。「要求する側」と「要求される側」、それぞれの視点から具体的なリスクを解説します。
要求する側のリスク|加害者になり得る危険な言動
感情に任せた言動は、被害者であるあなたを「加害者」に変えてしまう可能性があります。以下のような行為は、刑事罰や民事上の損害賠償責任を問われる可能性があるため、厳に慎まなければなりません。
- 強要罪・脅迫罪:「会社を辞めなければ、不倫の事実を家族や会社にすべて話す」「退職届を出さないと、どうなるか分かっているのか」といった言動は、相手を畏怖させ、義務のないこと(退職)を行わせようとする行為として、強要罪や脅迫罪に問われる可能性があります。
- 名誉毀損・プライバシー侵害:実際に会社や相手の家族に不倫の事実を告げたり、SNSなどで暴露したりする行為は、名誉毀損やプライバシー侵害等の問題となり得ます。この場合、相手から損害賠償を請求されるリスクがあります。
このような違法行為に及んでしまうと、本来請求できるはずだった慰謝料が減額されたり、最悪の場合、相手から請求された損害賠償額の方が上回ってしまったりする事態も想定されます。突然、相手の代理人弁護士から内容証明郵便が届き、ご自身の行為に対する責任を追及されることになりかねません。
要求される側の対応|退職に応じる法的義務はない
もしあなたが不倫相手の配偶者から退職を要求されている立場にある場合、まず明確に認識すべきは、その要求に応じる法的な義務は一切ないということです。

不倫という不法行為に対する慰謝料の支払い義務は生じ得ますが、それと退職は全く別の問題です。相手方の要求がエスカレートし、脅迫的な言動が見られたり、会社への連絡を示唆されたりした場合は、ご自身で対応しようとせず、速やかに弁護士へ相談することをお勧めします。
弁護士が代理人として介入することで、相手方との直接の接触を避け、法的な観点から冷静な交渉が可能です。適正な慰謝料額での示談を目指すとともに、「これ以上の要求や会社への連絡は一切行わない」といった内容を含む示談書を取り交わすことが、問題を穏便かつ最終的に解決するための合理的な選択肢となります。当事務所では、不倫慰謝料を請求された方からのご相談も多数お受けしております。
会社への報告は有効か?懲戒解雇の現実的な可能性
「会社に報告すれば、懲戒解雇にしてもらえるのではないか」という考えも浮かぶかもしれません。しかし、これもまた、期待通りには進まない可能性が高いだけでなく、新たなリスクを生む行為です。
裁判例の傾向として、従業員の私生活上の不倫は、原則として企業の秩序を直接乱すものではないと判断されます。そのため、単に「社内の人間と不倫関係にあった」という事実のみを理由に懲戒解雇した場合、その処分は「解雇権の濫用」(労働契約法16条)として無効と判断される可能性があります。
ただし、その不倫関係が社内で行われた、職務に支障をきたした、企業の評判を著しく損なった、といった特別な事情がある場合は、懲戒処分の対象となる余地はあります。特に、公務員の場合は服務規律が厳格であるため、民間企業とは異なる判断がなされることもあります。
会社に不倫を報告する行為自体のリスク
会社に不倫の事実を通知する行為は、前述の通り、相手の名誉やプライバシーを侵害する不法行為とみなされるリスクがあります。特に、会社宛に内容証明郵便を送付するなどの行為は、相手の名誉を毀損し、会社の業務を妨害する意図があると判断されかねない、非常に危険な行為です。
慰謝料の請求は、あくまで相手方個人に対して行うべき法的手続きです。会社を巻き込むことは、問題を複雑化させ、あなた自身の法的責任問題に発展する可能性を高めるだけです。慰謝料が支払われない場合の最終手段として給与差し押さえという法的手続きは存在しますが、これは裁判等の手続きを経た上で行われるものであり、個人的な感情で会社に連絡することとは全く次元が異なります。
実務的な解決策:示談書による「接触禁止条項」の活用
では、不倫相手に退職を求めることなく、今後配偶者と接触させないようにするには、どうすればよいのでしょうか。最も現実的かつ有効な手段が、慰謝料の支払いに関する示談書の中に「接触禁止条項」を盛り込むことです。
これは、慰謝料という金銭賠償に加えて、将来の接触を法的に禁止する約束を取り付けるものです。感情的な要求ではなく、法的に有効な合意を形成することで、問題の再発防止という目的を達成することが可能になります。
接触禁止条項で定めるべき具体的な内容
示談書に接触禁止条項を設ける際は、その内容を具体的に定めることが重要です。単に「今後一切接触しない」という曖昧な文言では、解釈の余地が生まれ、後の紛争の原因となり得ます。
具体的には、以下のような点を明記します。
- 禁止する接触の手段(例:電話、メール、SNS、手紙、第三者を介した連絡など)
- 私的な会話の禁止
- 例外規定(例:「業務上、客観的かつ合理的な必要性がある場合を除く」など)
特に同じ職場である以上、業務上の接触を完全にゼロにすることは非現実的です。そのため、例外規定を設けることで、合意の実効性を高めることができます。

違反した場合の「違約金」設定の重要性
接触禁止条項の約束をより確実なものにするためには、違反した場合の「違約金」をセットで定めておくことが極めて重要です。
違約金条項があれば、万が一相手が約束を破った場合に、精神的苦痛などを改めて立証することなく、定められた金額を請求することが可能になります。これは、相手に対する強力な心理的抑止力として機能します。慰謝料の分割払いを合意する場合と同様に、こうした将来のリスクに備える条項は不可欠です。
ただし、あまりに高額な違約金は公序良俗に反し無効となる可能性があるため、法的に有効な範囲で設定する必要があります。示談書の内容をより確実なものにするためには、強制執行認諾文言付の公正証書を作成することも有効な手段です。
北九州で職場不倫問題にお悩みの方へ
職場不倫の問題は、当事者の感情が複雑に絡み合い、直接交渉を行うことで事態がさらに悪化するケースが少なくありません。退職を迫るという法的に危うい行動に出る前に、一度冷静になり、法的な観点からご自身の状況を客観的に見つめ直すことが重要です。
弁護士が代理人として介入し、法的に整理された主張のもとで交渉を進め、接触禁止条項や違約金を含む適切な内容の示談書を作成することが、双方にとって最も合理的かつ安全な解決策といえます。感情的な対立を避け、将来の紛争の芽を摘むためにも、専門家にご相談ください。
実務上、不倫の被害者の方が「相手を退職させたい」と強く望まれることは少なくありません。そのお気持ちは十分に理解できますが、法的にそれを強制することはできません。この現実を踏まえた上で、いかにしてご自身の平穏な生活を取り戻すか、そのための適法で現実的な道筋を一緒に考えることが、私たちの役割です。
ご相談は事務所での対面相談にて承ります
当事務所では、事案の全体像を正確に把握し、適法かつ実効性のある解決策を立案するため、お電話やオンラインでのご相談は承っておりません。
感情的な対立が絡む男女問題の解決には、個別の事情を詳細にお伺いし、証拠関係を精査した上での法的な評価が不可欠です。そのため、必ず小倉北区の当事務所へ直接ご来所いただき、対面で詳細な事実確認を行った上で、今後の客観的な法的見通しをご提示いたします。

平井・柏﨑法律事務所は、北九州市を中心に福岡県内の離婚・男女問題に特化した法律事務所です。
財産分与や慰謝料請求、親権、養育費など、複雑な法律問題を数多く解決してきた豊富な実績とノウハウが強みです。
特に、ご相談者様のお話を丁寧に伺い、最適な解決策をご提案することで、不安な気持ちを和らげ、未来へ踏み出すお手伝いをいたします。
また、複数の男女弁護士が在籍しているため、ご希望に応じて話しやすい弁護士が担当することも可能です。
離婚や男女問題でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。まずはお気軽にお問い合わせください。
