不倫示談後の追加請求は可能か?北九州の弁護士が法的効力を解説

監修:弁護士 平井章悟(福岡県弁護士会所属/平井・柏﨑法律事務所)

示談書「清算条項」の重みと追加請求の原則

「一度は解決したはずなのに」「相手の嘘を信じて示談してしまった」。不倫問題で示談書を交わした後に、新たな事実が発覚し、後悔や怒り、そしてどうしようもない無力感に苛まれている方は少なくありません。感情が大きく揺れ動く中で、法的に何ができるのか、客観的で冷静な情報を求めていらっしゃることでしょう。

まず、法曹としての客観的な結論からお伝えしなければなりません。一度、「本件に関して、今後一切の金銭的請求をしない(名目の如何を問わず一切の請求をしない)」といった趣旨の「清算条項」を含む示談書に署名・捺印した場合、後から追加で慰謝料を請求することは、原則として法的に極めて困難です。合意を覆すためには、民法上の例外的な要件を満たす必要があります。

この記事では、なぜ追加請求が原則として認められないのか、その法的な理由を解説するとともに、極めて例外的に示談の効力を争える可能性のあるケースについて、専門的な見地から解説します。不倫に関する慰謝料請求の全体像については、不倫・不貞・浮気の慰謝料請求をしたい方へで体系的に解説していますので、併せてご参照ください。

なぜ追加請求は原則として認められないのか

示談が成立すると、当事者間での紛争は法的に解決したと扱われます。これは、示談が民法第695条に定められた「和解契約」に該当するためです。和解契約の目的は、当事者間の争いを最終的に終わらせ、法的な安定を図ることにあります。

その目的を担保するのが「清算条項」です。これは、「本示談書に定めるほか、当事者間には何らの債権債務も存在しないことを相互に確認し、今後、名目の如何を問わず、一切の請求をしない」といった内容の条項を指します。この条項に合意するということは、「たとえ後から新たな事実が発覚したとしても、この示談内容で全てを解決し、二度と蒸し返さない」という法的な約束を交わしたことになるのです。

裁判実務においても、この当事者の意思は最大限尊重されます。そのため、清算条項のある示談が一度有効に成立すれば、原則としてその合意内容を覆し、追加の請求を認めることはありません。これが、法的な手続きの厳格さであり、紛争の終局的解決という制度の根幹をなす考え方なのです。

不倫の示談書にサインした後に追加請求できるか悩むイメージ。示談書とペンが置かれたテーブルと、後悔の表情を浮かべる人物が写っている。

示談の効力を覆しうる例外的な法的要件

原則として追加請求は困難であると述べましたが、法は絶対的なものではなく、特定の状況下では救済の道を残しています。ただし、これから解説する要件は、その立証のハードルが極めて高いことをご理解いただく必要があります。

示談という契約の効力を覆す可能性があるのは、主に民法上の「詐欺取消」と「錯誤無効」に該当する場合です。これらの主張が法的に認められるか否かは、交わされた示談書の正確な文言と、合意に至った経緯を詳細に確認しなければ判断できません。そのため、最終的な法的評価は、個別の事案ごとに専門家が慎重に行う必要があります。

請求をしたい側にとっては「安易に追加請求をしても、裁判などで棄却されるリスクが高い」こと、請求をされる側にとっては「原則として支払う義務はないが、例外事由に該当する恐れがある場合は慎重な対応が必要である」ことを、双方にご理解いただくことが重要です。

1. 相手方の嘘が原因の場合(詐欺取消)

民法第96条は、詐欺による意思表示を取り消すことができると定めています。不倫の示談においては、「相手方が意図的に重大な事実を隠したり、嘘をついたりして、それによって騙された結果、本来であれば応じるはずのない内容の示談書にサインしてしまった」と法的に評価できるケースがこれにあたります。

例えば、不倫相手が「肉体関係は一度もなかった」「妊娠はしていない」などと嘘をつき、それを信じたために低額な慰謝料で示談に応じてしまったような場合です。しかし、単に「騙された」という主観的な感情だけでは、法的な「詐欺」は成立しません。取消しを主張する側が、

  • 相手に「欺罔行為(ぎもうこうい:人を騙す行為)」があったこと
  • その欺罔行為によって、自分が「錯誤に陥った(勘違いさせられた)」こと
  • 錯誤に陥った結果として、示談という「意思表示をした」こと

これら一連の因果関係を、客観的な証拠に基づいて立証する必要があります。この立証責任の壁は非常に高く、実務上、詐欺取消が認められるのは容易ではありません。この点については、法務省が公表している民法(債権関係)の改正に関する論点の検討(2)でも議論されています。

2. 重大な勘違いがあった場合(錯誤無効)

民法第95条は「錯誤」による意思表示について、一定の要件を満たす場合に無効となることを定めています。これは、示談の前提となる事実関係について重大な勘違い(錯誤)があり、「もしその事実を正しく認識していれば、そのような内容の示談には応じなかったであろう」といえる場合に、示談(意思表示)の無効を主張できる可能性がある、という整理です。

例えば、「不貞行為は1回きりである」という認識が当事者双方の合意の重要な基礎となっていたにもかかわらず、実際には長年にわたり継続的な関係であったことが後に判明した、といったケースが考えられます。この場合、慰謝料額の算定の基礎が根本から覆るため、錯誤による無効を主張する余地が出てきます。

ただし、単に「知らなかった」というだけでは錯誤は認められません。その錯誤が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要である」と評価される必要があり、さらに、錯誤に陥ったことについて重大な過失がなかったことも要件となります。相手に不倫を否定された場合の対応と同様、客観的な事実の評価が求められます。改正民法における意思表示に関する見直しでも、この要件の厳格さが示されています。

示談後の新たな不貞行為は「別問題」

これまで解説してきたのは、あくまで「示談成立前の事実」に関する追加請求の問題です。これとは全く異なるのが、「示談が成立した後に、再び不貞行為が行われた」というケースです。

この場合、清算条項の効力がどこまで及ぶかは示談書の文言次第ですが、通常は「示談成立日までの行為」を清算対象とする趣旨で作成されることが多いです。したがって、示談成立後の新たな不貞行為は、示談によって解決された問題とは別個の不法行為として評価され得るため、「追加請求」ではなく「新たな慰謝料請求」として請求できる余地があります。

例えば、離婚後に不倫が発覚した場合と同様、時効の問題はありますが、清算条項によって請求が妨げられることはありません。

不倫示談後の追加請求が原則不可であることと、例外的に可能なケース(詐欺・錯誤)を図解したインフォグラフィック。

【立場別】示談成立後のトラブルに関するQ&A

ここでは、請求したい側と請求された側、それぞれの立場からの典型的なご質問に、法的な見地からお答えします。

Q.【請求したい側】「不倫は半年前から」と聞き50万円で示談しましたが、実は5年前からでした。追加請求は無理ですか?

A. (結論)非常に困難ですが、可能性が完全にゼロではありません。
(法的理由)示談書に清算条項がある以上、原則として追加請求は認められません。しかし、相手方が不倫期間という慰謝料額を左右する重大な事実について意図的に嘘をつき、それによってご相談者様を騙して著しく低額な慰謝料で合意に至らせたと法的に評価できる場合、民法上の「詐欺」を理由に示談の取消しを主張できる余地があります。ただし、これを裁判の場で立証するハードルは極めて高く、交わされた示談書の具体的な文言、合意に至った経緯を詳細に分析し、慎重な法的評価を行う必要があります。

Q.【請求される側】清算条項入りの示談書を交わしたのに、相手が「納得できない」と連絡してきます。応じる必要はありますか?

A. (結論)原則として、応じる法的義務はありません。
(法的理由)清算条項は、まさにそのような事後的な紛争を法的に終結させるための合意です。示談が有効に成立している限り、相手方の感情的な理由による追加要求に応じる必要はないのです。ただし、相手方が感情的になり、訴訟等の強硬な手段に出てくる可能性も皆無ではありません。そのような事態を避けるためにも、不倫慰謝料を請求された場合は、弁護士を通じて「本件は法的に解決済みである」旨を客観的かつ冷静に回答し、事態を沈静化させることが適切な対応と考えられます。

将来の紛争を防ぐための示談書と、慰謝料の考え方

示談後のトラブルは、そもそも最初の示談書の作成方法や、合意した慰謝料額の妥当性に問題があったケースも少なくありません。将来の紛争を予防する観点から、関連する重要な知識について解説します。

将来のトラブルを防ぐ「正しい示談書」とは

法的に有効で、将来の紛争を予防する示談書には、清算条項以外にも盛り込むべき重要な条項があります。例えば、当事者間の接触を禁じる「接触禁止条項」、合意内容を第三者に口外しないことを約束する「口外禁止条項」、そして支払いが滞った場合のペナルティを定める「違約金条項」などです。

これらの条項を適切に設定し、さらに支払いの強制力を担保するためには、単なる私文書ではなく、公正証書として作成することが極めて有効です。将来の紛争を予防するための、法的に有効な示談書の作成方法については、専門家にご相談ください。

不倫慰謝料の適正な算定基準

「そもそも最初の示談金額が低すぎたのではないか」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。不倫の慰謝料額は、画一的に決まるものではありません。不貞行為の期間や頻度、態様の悪質性、婚姻期間の長短、不貞行為が原因で離婚に至ったか否かなど、様々な要素を総合的に考慮して算定されます。

裁判実務における不倫慰謝料の法的な相場と、具体的な算定基準について理解することで、ご自身のケースにおける慰謝料の妥当性を客観的に判断する一助となります。

北九州の弁護士による対面法律相談のご案内

示談の効力が及ぶ範囲や、合意を取り消せる可能性の有無は、示談書の一言一句の解釈と、合意に至った当時の交渉経緯の客観的な確認によって決まります。これは極めて専門的な法的判断を要する問題です。

当事務所では、こうした法的評価を正確に行うため、お電話やオンラインでのご相談は承っておりません。当事務所では、北九州市小倉北区の当事務所へご来所いただき、交わされた示談書等の資料を対面で拝見した上で、今後の客観的な法的見通しをご提示いたします。

一度は解決したはずの問題が再燃し、精神的に大変お辛い状況にあることと存じます。しかし、感情的に行動しても、望む結果は得られません。まずはご自身の置かれた法的な状況を正確に把握することが、次の一歩を踏み出すための第一歩となります。一人で抱え込まず、平井・柏﨑法律事務所にご相談ください。

最終更新日:2026年5月18日

監修:弁護士 平井章悟(福岡県弁護士会所属/平井・柏﨑法律事務所)

 

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