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不倫による精神疾患。慰謝料請求で知るべき法的視点
パートナーの不貞行為は、心に深く、癒やしがたい傷を残すものです。その計り知れない精神的ショックから、うつ病や適応障害といった精神疾患を発症してしまう方が少なくないのは、悲しい現実と言えるでしょう。
今、この記事をお読みの方の中にも、心療内科の診断書を手に、怒りや悲しみ、そして先の見えない不安に苛まれている方がいらっしゃるかもしれません。そのお気持ちは、痛いほどお察しいたします。しかし、そのお辛い感情を、法的な損害賠償請求へと結びつけるためには、一度冷静に、客観的な視点を持つことが不可欠です。
結論から申し上げますと、医師の診断書は慰謝料請求において極めて重要な証拠ですが、それ一枚で自動的に慰謝料が数百万円単位で増額されるわけではありません。法的な観点から最も重要視されるのは、不貞行為と精神疾患の発症との間に、誰もが納得できる客観的な「因果関係」が存在すると証明できるか、という一点に尽きます。
本記事では、この「因果関係」という法的な壁を乗り越えるために何が必要なのか、そして、請求する側・された側双方の立場から、慰謝料と診断書の法的な効力について、北九州市小倉北区の弁護士が専門的見地から解説します。不倫慰謝料の全体像については、不倫慰謝料の相場と増額・減額要素で体系的に解説しています。
慰謝料増額の壁「相当因果関係」とは

不倫を原因とする精神疾患で慰謝料の増額を求める際、避けては通れないのが「相当因果関係」という法的な概念です。これは単に「不倫されて辛くて病気になった」という主観的な訴えだけでは不十分で、「社会通念上、その不貞行為がなければ、この精神疾患は発症しなかったであろう」と客観的に認められる、法的なつながりを意味します。
裁判所は、感情論ではなく、客観的な証拠に基づいてこの「相当因果関係」の有無を慎重に判断します。したがって、請求する側はこれを立証する必要があり、請求された側はこれに反論することになります。ここでは双方の視点から、具体的なポイントを解説します。
【請求側】因果関係を立証するためのポイント
慰謝料の増額を求める側が「相当因果関係」を立証するためには、特に以下の3つの時系列を客観的な証拠で示すことが極めて重要となります。
- 不貞行為の発覚・認識時期:いつ、どのようにして配偶者の不貞行為を知ったのか。
- 精神疾患の初診日:精神的な不調を訴え、初めて心療内科や精神科を受診した日。
- 診断内容:医師からどのような診断名(例:うつ病、適応障害など)が下されたか。
これらの時系列の中で特に重要なのは、「不貞行為の事実を知った『後』に、精神科・心療内科を初めて受診した」という事実関係です。この時間的な近接性が、因果関係を強く推認させる要素となります。
さらに、医師が作成した診断書はもちろんのこと、初診時のカルテに「夫(妻)の不倫が発覚し、眠れない、食欲がない」といった具体的な訴えが記録されていれば、それは後の交渉や裁判において、非常に強力な証拠となり得ます。不貞行為を立証する証拠の集め方も重要ですが、ご自身の心身の不調に関する記録もまた、法的には大きな意味を持つのです。
【請求された側】主な反論と「素因減額」
一方で、精神疾患を理由に高額な慰謝料を請求された側にも、法的な反論の余地はあります。代表的な反論としては、主に以下の2点が挙げられます。
- 不貞行為以前からの通院歴の指摘:請求者が不貞行為の発覚以前から、別の理由で精神科等に通院していた事実を指摘し、「元々精神的に不安定な状態にあったのではないか」と主張するケース。
- 不貞行為以外のストレス要因の指摘:仕事上の問題、育児の悩み、夫婦関係の悪化など、不貞行為以外にも精神疾患の原因となりうる要因が存在したことを主張するケース。
さらに、法的な議論において「素因減額」という考え方が存在します。これは、被害者自身が元々持っていた精神的な脆弱性(素因)が、疾患の発症や症状の悪化に影響を与えたと考えられる場合に、その寄与度に応じて賠償額を減額するという考え方です。つまり、裁判所は、精神疾患という結果のすべてを不貞行為のみに帰責させるのではなく、公平な観点から賠償額を調整することがあるのです。
これらの反論が認められるかどうかは、個別の事案における証拠関係に大きく左右されます。そのため、慰謝料請求が認められないケースも存在することを理解しておく必要があります。
診断書と慰謝料増額に関するQ&A

ここでは、不倫と精神疾患をめぐる慰謝料請求に関して、実際に多く寄せられるご質問にQ&A形式でお答えします。
Q. 心療内科の診断書があれば、慰謝料は数百万円増えますか?
結論として、必ずしもそうとは限りません。
法的な理由として、まず前述の「相当因果関係」が認められることが大前提となります。その上で、因果関係が認められた場合でも、増額として考慮される金額は事案により幅があり、診断書があることだけで大幅な増額が当然に見込めるものではありません。精神疾患による慰謝料増額は、不貞行為の期間や態様といった他の増額・減額要素とあわせて、総合的に判断されます。
ただし、うつ病等が原因で休職を余儀なくされ、収入が減少したような場合には、その減少分(休業損害)を慰謝料とは別の損害として請求できる可能性があります。ご自身の状況が法的にどのように評価されるか、専門家である弁護士に相談する価値は十分にあるでしょう。
Q. 相手から「うつ病の診断書」を突き付けられました。言い値で払うべき?
結論として、言い値で直ちに支払う必要があるとは限りません。
法的な理由として、精神疾患と不貞行為との「相当因果関係」を立証する責任は、あくまで請求する側にあります。したがって、相手方から診断書が提示されたとしても、その疾患が本当に今回の不貞行為のみに起因するものなのか、あるいは他の要因(元々の持病、職場の問題など)が影響していないかを、客観的な証拠に基づいて冷静に検証する必要があります。
感情的になってしまい、相手の要求を鵜呑みにして高額な示談金を支払ってしまう前に、まずは一度立ち止まることが肝要です。専門家である弁護士を通じて、法的に適正な金額での解決を目指すべきです。突然内容証明郵便が届いた場合も同様に、慌てず専門家にご相談ください。
北九州で正確な見通しを得るには「対面での資料確認」が不可欠です
不倫と精神疾患が絡む問題は、診断書一枚で白黒がつくほど単純なものではありません。通院の時系列、ご夫婦の関係性がこれまでどのように変遷してきたか、不貞行為以外のストレス要因はなかったかなど、あらゆる事情を総合的に整理・分析して初めて、法的な因果関係の有無と、適正な慰謝料額の具体的な見通しが立つものなのです。
福岡地方裁判所小倉支部などでの実務においても、精神疾患の診断書が提出されたからといって、直ちに高額な慰謝料が認められるわけではありません。相手方からは「不倫発覚前から仕事や育児のストレスで通院していたではないか」「夫婦関係は元々破綻していた」といった反論がなされることが常です。だからこそ、単に診断書を提示するだけでなく、発症の時期や経緯を丁寧に立証していく経験と知見が求められます。
当事務所では、こうしたデリケートな医療情報と法的な因果関係を正確に読み解くため、お電話やオンラインでのご相談は承っておりません。必ず小倉北区の当事務所へ直接ご来所いただき、お手元にある診断書や診療明細書等の資料を弁護士が対面で拝見しながら、客観的で冷静な法的見通しをご提示いたします。
お一人で抱え込まず、まずは専門家である私たちにご相談ください。それが、感情的な争いを避け、法に基づいた正当な解決への第一歩となります。

平井・柏﨑法律事務所は、北九州市を中心に福岡県内の離婚・男女問題に特化した法律事務所です。
財産分与や慰謝料請求、親権、養育費など、複雑な法律問題を数多く解決してきた豊富な実績とノウハウが強みです。
特に、ご相談者様のお話を丁寧に伺い、最適な解決策をご提案することで、不安な気持ちを和らげ、未来へ踏み出すお手伝いをいたします。
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