1 本事案の概要
ご紹介する裁判例は、東京地方裁判所平成27年5月27日判決です。
女性Yは、Xの夫であるAとの交際を開始し、その後約5年間にわたり同居生活を続けていました。
これに対し、Yは、Aが性的不能であり、不貞行為が成立する余地はないと主張しました。
そこで、妻Xは、YがAと不貞(不倫)関係にあり、その結果夫婦関係が破綻したとして、Yに対して500万円の慰謝料を請求しました。
2 認容された慰謝料額
300万円
3 算定にあたって考慮された事情
⑴ 不法行為の成立について
Aが、全く性的不能であったか否かは疑わしいが、仮に、YとAとの間に、性的関係がなかったとし ても、Yが、Xと婚姻関係にあるAと同居生活を続けている以上、不法行為が成立し得ることは、当然である。
⑵ 増額事情
・XとAの婚姻期間が約15年であること
・X及びAが、それぞれ相手の連れ子と養子縁組をしていること
・XとAの自宅土地建物が、夫婦の共有となっており、取得あるいは新築の資金調達のために、Xが所有する不動産に抵当権が設定されるなど、XAは財産関係でも密接な関係にあること
・Aの会社の経営に、Xが深く関与していること
・YがAと別れることには否定的とみられること
⑶ 減額事情
・YA間の関係について、Yが、主導的立場であったという事情はみられないこと
4 弁護士からのコメント
本事案における特殊性としては、裁判所が、YとAの性的関係(肉体関係)の有無を認定することなく、YとAが長期間にわたり同居生活続けたことをもって不法行為の成立を認めた点にあります。
一般的には性的関係(肉体関係)が認められない場合には、不法行為が成立せず、慰謝料も発生しないことが多いです。しかし、婚姻関係にある者が他者と長期間にわたり同居生活を続ければ、婚姻関係が破綻に至ることは明らかですので、本事案における裁判所の判断は妥当なものと考えられます(なお、判決時点においてXとAは離婚していないようですが、裁判所は破綻したと認定しています。)。
また、不倫や浮気(不貞)により夫婦関係が破綻するに至った場合の慰謝料としては、150万円前後が基準となることが多い印象です。
そうすると、300万円という慰謝料額は、裁判所が性的関係(肉体関係)の有無を認定していないことを考慮すると、かなり高額といえます。その理由としては、XとAの婚姻関係に問題がなく、財産関係でも密接な関係にあったにもかかわらず、長期間にわたり同居生活を続けたという特殊事情を裁判所が重く見たということができます。
このように、本事案は、性的関係(肉体関係)が明確に認められなくとも、長期間にわたり同居生活を続けていた等の事情があれば、不法行為が成立し慰謝料が発生する可能性があることを示すものといえます。もっとも、慰謝料額が高額となっている点については、考慮要素としては挙げられていませんでしたが、Aが高額な年収(3500万円程度)を得ており、そのAとの婚姻関係が破綻したことも事実上考慮している可能性があります。そのため、300万円という慰謝料金額については一般化できるものではないと思料されますので注意が必要です。