示談後の接触と違約金|請求・減額の法的論点【北九州の弁護士が解説】

示談後の接触、違約金請求は法的な権利。しかし回収には条件がある

不倫問題について一度は示談を交わし、「二度と接触しない」という約束(接触禁止条項)を取り決めたにもかかわらず、相手が再び連絡をしてくる。このような事態は、残念ながら決して少なくありません。平穏を取り戻したはずの日常が再び脅かされることに対し、強い憤りや失望を感じるのは当然のことです。

しかし、このような状況で最も重要なのは、感情に任せて行動するのではなく、冷静に法的な手続きに則って対応することです。本記事では、示談後の接触禁止条項違反に対する違約金請求の法的論点について、専門家の立場から解説します。

結論から申し上げますと、以下の3点が重要なポイントとなります。

  • 接触禁止条項に基づく違約金請求は、契約上の正当な権利です。
  • ただし、その権利を実現(回収)するためには、相手が条項に違反した事実を客観的な証拠によって立証する必要があります。
  • そして、「1回の連絡で数百万円」といった不当に高額な違約金の定めは、事案によっては公序良俗違反等を理由に、その全部または一部の効力が否定される可能性があります。

怒りのあまり、相手の職場に連絡するなどの直接的な行動は、かえってご自身を法的に不利な立場に追い込む危険性をはらんでいます。この記事が、あなたの正当な権利を守り、問題を適切に解決するための一助となれば幸いです。なお、示談成立後に新たな不貞の事実が発覚した場合の対応については、別の論点となりますので、該当する方はそちらの記事もご参照ください。

違約金請求を実現するための法的条件と手続き

示談書で定めた接触禁止条項とそれに付随する違約金は、法的には「損害賠償額の予定」(民法420条)として扱われます。これは、将来契約違反があった場合に支払われる損害賠償額をあらかじめ当事者間で合意しておくものであり、実際に生じた損害額を立証することなく、契約違反の事実さえ証明できれば、原則として定められた金額を請求できるという効力を持ちます。

しかし、権利があることと、それを実際に「回収」できることは別の問題です。請求を成功させ、最終的に金銭を回収するためには、いくつかの法的な条件と手続きを理解しておく必要があります。特に、違反行為を証明する「証拠の有無」と、示談書が「公正証書」として作成されているか否かが、その後のプロセスを大きく左右することになります。不倫慰謝料の分割払いにおける未払いリスクと同様に、契約違反に備えた事前の取り決めが極めて重要になるのです。

法律事務所で示談書を手に弁護士へ相談する女性

請求の鍵は「接触の事実」を客観的に立証できるか

違約金を請求するにあたり、最も重要な法的課題は「立証責任」です。これは、請求する側が「相手が接触禁止条項に違反した」という事実を、客観的な証拠に基づいて証明する責任を負うことを意味します。「相手から電話があったはずだ」という主張だけでは、法的には認められません。

裁判所などの公的な場で通用する客観的な証拠としては、以下のようなものが挙げられます。

  • LINEやメール、SNSのダイレクトメッセージ等のスクリーンショット:送受信者の名前、日時が明確に表示されていることが重要です。
  • 通話履歴や着信履歴:携帯電話会社の記録や、スマートフォンの画面キャプチャなどが該当します。
  • 録音データ:会話の内容が明確に聞き取れ、相手が本人であると特定できるものが有効です。
  • 探偵事務所の調査報告書:第三者による客観的な報告として、高い証拠能力を持つ場合があります。
  • GPSの移動履歴:ただし、GPSの設置方法によっては違法となるリスクもあり、慎重な判断が求められます。

これらの証拠を確保できるかどうかが、請求の成否を分ける最初の関門となります。

公正証書の有無で回収プロセスは大きく変わる

次に、作成した示談書がどのような形式であるかが、回収の実効性を劇的に変えます。特に、「強制執行認諾文言付き公正証書」で示談書を作成しているか否かは、決定的な違いを生みます。

公正証書がある場合:
相手が違約金の支払いに応じない場合でも、金銭の一定額の支払について強制執行認諾文言付き公正証書が作成されていれば、通常の訴訟で判決を得る手続きを経ずに、執行文付与や送達など所定の手続きを経た上で、相手の給与や預金口座といった財産に対する強制執行を申し立てることが可能です。これは、時間と費用を大幅に節約できる、極めて強力なメリットです。

私的な示談書(当事者間の合意書)しかない場合:
この場合、示談書だけでは強制執行はできません。まず、違約金の支払いを求める訴訟を裁判所に提起し、勝訴判決を得る必要があります。相手が争ってきた場合、手続きには数ヶ月から一年以上を要することもあります。この勝訴判決が「債務名義」となり、ようやく強制執行の手続きに進むことができるのです。

このように、公正証書を作成しておくことは、将来の契約違反に対する最も有効な備えと言えるでしょう。

知っておくべき違約金の減額と「自力救済」の絶対的禁止

違約金条項は強力な権利ですが、万能ではありません。請求する側、される側双方が知っておくべき重要な法的論点が存在します。示談書に違約金の定めがあっても、相手方が素直に支払いに応じるケースは実務上稀であり、多くの場合、内容証明郵便の送付や支払督促、訴訟といった法的手続きが必要となります。

また、請求の可否を判断する上で、「違反の事実を立証できるか(証拠の推認力)」や「交わされた示談書が強制執行に耐えうるか(公正証書か否か)」といった法的評価は、極めて専門的です。これらの判断は、お電話で簡単にお伝えできるものではありません。私ども平井・柏﨑法律事務所では、北九州市小倉北区の事務所にご来所いただき、示談書の現物と接触の証拠を弁護士が直接拝見し、慎重に事実関係を確認させていただくプロセスを不可欠なものと考えております。

不当に高額な違約金は「公序良俗」により減額され得る

「一度でも連絡したら500万円」といった、違反行為の態様に対して社会通念上、著しく高額な違約金の定めは、その全額が認められるとは限りません。民法第90条は「公の秩序又は善良の風俗」(公序良俗)に反する法律行為を無効と定めており、あまりに高額すぎる違約金条項は、この公序良俗に反するとして、裁判所によってその一部または全部が無効と判断される可能性があります。

例えば、一度のLINEメッセージ送信や電話の着信といった比較的軽微な違反に対し、数百万円もの違約金を課すことは、暴利的であると評価され、事案によっては、公序良俗違反等を理由に、違約金条項の全部または一部の効力が否定され、結果として認められる金額が限定されることがあります。これは、不倫慰謝料本体の金額算定と同様に、様々な事情を考慮して裁判所が妥当性を判断するのです。

請求する側にとっては「満額回収できるとは限らない」というリスクを、請求される側にとっては「法的な反論の余地がある」という可能性を、それぞれ冷静に認識しておく必要があります。

不当に高額な違約金が公序良俗違反により減額される仕組みを示した図解

絶対に避けるべき「自力救済」。名誉毀損で加害者になり得る

「約束を破った相手が悪いのだから、何をしてもいいはずだ」という考えは、極めて危険です。怒りに任せて相手の勤務先に連絡を入れたり、SNS上で事実を暴露したり、共通の知人に言いふらしたりする行為は、法治国家において固く禁じられている「自力救済」にあたります。

たとえ内容が事実であっても、公然と他人の社会的評価を低下させる行為は、名誉毀損罪(刑法230条)に該当し得ます。また、プライバシー侵害や業務妨害罪として、民事・刑事双方の責任を問われる可能性も十分にあります。

その結果、慰謝料を請求する被害者であったはずが、一転して損害賠償を請求される「加害者」の立場になりかねません。いかなる理由があっても、法的手続き以外の手段で報復を図ることは絶対に避けるべきです。正当な権利は、必ず法に則った手続きによって実現しなければなりません。

特に相手が公務員などの社会的信用の高い職業の場合、職場への連絡はより深刻な事態を招くため、特に慎重な対応が求められます。

【Q&A】弁護士が回答する接触禁止違反と違約金のよくある質問

ここでは、示談後の接触禁止条項違反に関して、当事務所に寄せられることの多いご質問に、Q&A形式でお答えします。

Q. 違約金200万円と定めましたが、必ず全額回収できますか?

A. 必ずしも全額が認められるとは限りません。

【法的理由】
まず、相手が接触してきた事実を客観的な証拠(LINEの記録など)で立証できれば、違約金を請求する権利自体は発生します。しかし、裁判になった場合、1回のLINE送信といった違反行為に対して200万円という金額は、社会通念上高額すぎると裁判所が判断する可能性があります。その場合、前述の「公序良俗」の観点から、違約金条項の全部または一部の効力が否定され、結果として認められる金額が限定されることが考えられます。示談書の内容や違反の態様によって判断は異なりますので、まずは証拠を精査し、示談書全体の法的な評価を行うことが必要です。必ず満額回収できるとは限らない現実と、自力での取り立てのリスクを認識することが重要です。

Q. 業務上の連絡で違約金を請求されました。支払う義務はありますか?

A. 示談書の具体的な文言と、接触の具体的な経緯によります。

【法的理由】
まず確認すべきは、示談書に「業務上やむを得ない場合を除く」といった例外条項が設けられているか否かです。この条項があれば、連絡が真に業務上不可欠なものであったことを立証できれば、支払い義務を免れる可能性があります。しかし、例外条項がない場合や、条項があっても連絡内容が業務の範囲を逸脱した私的な雑談などを含んでいた場合は、契約違反と見なされ支払い義務が生じる可能性が高いでしょう。

ご自身で安易に「業務連絡だった」と反論することは、かえって事態を悪化させる危険もあります。相手方から内容証明郵便などで正式な請求が届いた場合は、直接対応せず、速やかに弁護士へご相談ください。減額の余地はあっても、契約違反の責任そのものは免れない現実を直視し、専門家を介して対応することが賢明です。

北九州で示談後のトラブルにお悩みの方へ【対面相談の重要性】

示談後の接触禁止条項違反をめぐる問題は、請求する側にとっても、される側にとっても、精神的に大きな負担となります。違約金の請求が法的に認められるか、そして実際に回収が可能か、あるいは減額が認められるかは、交わされた示談書の具体的な文言と、手元にある証拠の有効性を法的な観点から緻密に分析・評価することによって、その見通しが大きく変わってきます。

これらの事実関係を正確に見極め、適法かつ適切な解決手続きを進めるため、当事務所では、お電話やオンラインでのご相談は承っておりません。

その理由は、示談書の現物と証拠資料を弁護士が直接目で見て確認するプロセスこそが、ご相談者様にとって最も重要である、客観的で誠実な法的見通しを立てるための最低条件であると確信しているからです。画面越しの情報や口頭での説明だけでは、見落としが生じるリスクを排除できません。

平井・柏﨑法律事務所は、北九州市小倉北区に事務所を構え、これまで数多くの離婚・男女問題に携わってまいりました。示談後の予期せぬトラブルにお悩みの方は、一人で抱え込まず、まずは当事務所の法律相談をご予約ください。示談書と関連する証拠をご持参の上、事務所にて直接お話を伺い、あなたにとって最善の解決策をご提案いたします。

 

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